東京マラソン返金問題を法的に解釈する。

東京マラソン同様に

東京オリンピックが中止になっても、チケット返金しないって凄いなと思うけど。

役員は月給150万円とか貰ってるのにね。

東京マラソン規約は次の通りです。
「当法人が東京2020チケット規約に定められた義務を履行できなかった場合に、その原因が不可抗力による場合には、当法人はその不履行について責任を負いません」

以下で、払い戻す義務があることを、同規約と民法の条文に沿って解説します。

まずこの規約のうち、「義務を履行できなかった‥原因が不可抗力による場合」については、コロナなので当てはまります。



次に「当法人はその不履行について責任を負いません」の意味ですが、義務を履行できなかったことについて、民法415条の債務不履行責任を負わない、という趣旨です。

民法415条は次の通り。
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」

この条文は少しわかりにくいのですが、要するに相手の不注意による契約違反の場合には、相手方は契約違反から生じた損害の賠償を請求できるというものです。

先の記事は、上記の事を前提として、主催者には不注意がないので責任を負わないと述べていた訳です。

しかし、ここで問題になっているのは契約違反による損害です。具体的には、観戦のためホテル を予約していたが観戦できなくなったのでキャンセル料がかかったという場合です。この不利益については、先の規約からすれば確かに主催者には責任を追及できません。

しかし、チケット料の払い戻しは全く別です。これは、効力を失った契約の精算関係だからです。この場合には、民法536条(債務者主義の危険負担)が適用されます。

民法536条1項
 「‥当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。」

この条文から分かる様に、契約当事者の双方に責任のない理由で義務を履行できなくなったとき(コロナはこれに当たりますよね)には、履行できなくなった義務の債務者(すなわち主催者)は、反対給付(すなわちチケット料)をもらう権利を有しないのです。

チケット料をもらう権利がないのに受けとっているのですから、当然に返還義務が生じます(根拠条文は民法703条以下の不当利得)。

もし主催者がチケット料を払い戻さないと強弁するとすれば、「確かに受け取ったけどもう手元に利益は何も残ってません、だから返せません。」と主張するしかありませんが(民法703条の「利益の存する限度」)、契約の精算の場合にはこの様な解釈は認めないのが通説です。

以上をまとめると、規約と民法の条文からは当然に返還義務が生じます。わかりやすく言えば、お互いのせいでない理由で義務を履行できなくなったんだから契約は無効、無効な契約に基づいて払ったお金は返してね、というだけの話です。

なお、付言しておきますと、大会組織委員会は法人ですので、消費者を相手方とするチケットの売買は、消費者契約法の適用を受ける消費者契約でもあります。チケット料の不返還は同法10条にも違反していると解されます。

それにしても、公益財団法人である大会組織委員会が悪徳業者のような対応を取るとは‥。

ではなぜ、無理筋と分かっているのに、「払い戻さない」と示唆しているのでしょうか。
 この理由は非常に単純で、自発的に返還しないほうがトクだからです。分かりやすく言うと、購入者の多くが泣き寝入りすると予測しているのだと思われます。

といいますのは、ほとんどの購入者が支払ったチケット代は、数千円~数十万円の範囲内にとどまると思われますが、この場合、訴えを起こしてまで返還を求めるのは、その時間的、経済的、心理的負担を考えると割に合わない場合が多いのです。

訴訟を提起するのは大変ですから弁護士を雇うのが通常ですが、弁護士費用はバカになりません。請求金額が60万円以下であれば「少額訴訟」という比較的簡単な手続の訴えを自分で起こすことができますが、その時間と労力を考えると、やはり二の足を踏む人が多いでしょう。

すなわち、権利があるということと、この権利を実現するということは、まったく別のことがらなのです。権利は行使されなければ、そのうち時効によって消滅します。水戸黄門は助けに来てくれません。

返還義務を負っている者からすれば、とりあえず自発的には返還せず、しっかりと権利主張してきた一部の人だけを対象にして、陰でこっそりと返すという方法をとったほうがトクなのはおわかりでしょう。

このように、本来は義務があるのに自発的に履行せず、一部の人だけを対象にして陰でこっそりと履行するというやり方は、悪徳業者がよく用いる手口です。金銭の返還はあくまで民事事件なので、返さなくてもそれだけで刑事上の問題はありません。

もし今後、オリンピックが中止になり、かつ委員会がチケット料の返還を認めない場合、購入者の皆さんには、泣き寝入りせず、少額訴訟を提起していただくのが良いかと思います。ただ、公益財団法人である委員会にどれだけ資産があるかわからない点には、少し不安がありますね。

なお、このような少額の消費者被害を救済するため、一定の要件を満たした消費者団体(「特定適格消費者団体」といいます)が、消費者に代わって訴訟を提起してくれる制度があります。簡単に説明しますと、被害者は団体に被害の連絡をしておけば、団体が勝訴した場合に救済を得られるという制度です。

では
東京マラソンの参加料も返還請求できるのか

基本的な考え方は同じですので、参加料についても返還請求できる可能性はあると思われます。

















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