新型コロナの国産ワクチン開発の現状
新型コロナの国産ワクチン開発に新たな顔ぶれが加わった。VLP Therapeutics Japan合同会社(VLPTジャパン、東京都千代田区)がそれで、厚生労働省が8月17日に同社に対してワクチン生産体制等緊急整備事業で143億4000万円を補助することを決めた。
VLPTジャパンが開発中のワクチンは、現在日本で接種が進んでいるファイザー製やモデルナ製と同じメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンだが、自己増殖RNA(レプリコン)技術を用いており、少量でも体内で十分な抗体が作られる特徴がある。
協力機関の一つである大分大学が8月25日に、同ワクチンの第1相臨床試験を10月に始めると発表。その後2021年度中に第2/3相臨床試験に進み、2022年の承認申請を目指すという。VLPTジャパンとはどのような企業なのか。
VLPTジャパンは2020年に、米VLPセラピューティクス(メリーランド州)の100%子会社として設立された企業で、現在、大分大学をはじめ国立国際医療研究センター、医薬基盤・健康・栄養研究所、大阪市立大学、国立病院機構名古屋医療センター、北海道大学の6機関と協力して、新型コロナワクチンの開発に取り組んでいる。
米VLPセラピューティクスは2013年に、赤畑渉氏らが設立した企業で、新型コロナワクチンのほか、がんに対する治療ワクチンや、マラリア、デングなどに対する予防ワクチンの研究開発を進めている。
創業者の赤畑氏は1997年に東京大学教養学部を卒業後、京都大学ウイルス研究所の速水正憲教授のもとでHIV(ヒト免疫不全ウイルス)ワクチンの研究開発に携わり、その後ウイルス様粒子(VLP)を使ったチクングンヤ熱ワクチンを開発。現在は米VLPセラピューティクスのCEO(経営最高責任者)で、VLPTジャパンの代表職務執行者を務める。
赤畑氏が開発したVLPワクチンは、見た目はウイルスそのものだが、ウイルスの遺伝子を持たないため、感染はせずに免疫反応だけを引き起こす。このため発症する危険性がなく安全性が高い。
短時間で日本人全員分のワクチンを生産
VLPTジャパンのワクチンは、新型コロナウイルスのmRNAを体内に投与することで、新型コロナウイルスのたんぱく質(抗原)を作り出すもので、免疫の働きでこのたんぱく質にくっつき機能を奪う抗体が生産される。
ここまではファイザーやモデルナのワクチンと同じだが、VLPTジャパンのワクチンは抗原を複製する機能が組み込まれており、体内で大量の抗原が作られるため、ワクチンの接種量が少なくて済み、短時間で日本人全員分のワクチンの生産が可能という。
国産ワクチンを開発中の塩野義製薬<4507>や第一三共<4568>、KMバイオロジクス(熊本市)などは、2021年中の第3相臨床試験を予定しているため、VLPTジャパンのワクチンはこれら企業よりも開発が遅れる可能性が高いが、量産の段階になると一気に差を縮められそうだ。


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