仏となる。

仏となる。

一人の男が、正月明けの7日になくなった。
若いころからライバルであり、油と水のような人間関係だった。
虫のすかない男とは、彼のことだ。
よく喧嘩した。それも殴り合いだ。

顔も見たくもない男は、同じように私に敵対心を持っていることを感じていた。
あまり最近までまったく交流することもなく、またお互いに無視していたのだろうか?
年齢は私より2つ上。

今年の正月に、ある年賀状が届いた。
ミミズが這ったように弱弱しい字体で、年始の言葉が書き込まれていた。差出人を確認すると、彼だった。

これまでも一度も年賀状を交わしたことがなかったのに、なぜ??
年賀状の最後の言葉に心が震えた。

”大変お世話になりました。貴方に会えてよっかた。今後酒でも飲んでくださいませんか?”。

7日会社に彼の訃報を知らせる通達メールが届いた。
そのとき、初めて彼の言葉の意味が理解できた。

どんな人間でも死んでしまえば、仏様になる。
かれは最後に仏様になったのだ。

そして、昨夜お通夜に行ってきた。
線香を立て、彼とのトラウマが脳裏のなかで反芻していた。

最後のお顔を拝見したくて、ご家族にお願いした。
数十年ぶりの彼は、明らかに昔の彼の表情ではなかった。

肺ガンだった。
頬がやつれ、顔が小さくなったなと素直に感じた。
安らかな表情であったので、少し救われた。

死んでしまえば仏様。
私は心から彼の成仏を願い手を合わせて祈った。
”ありごつございます。君の年賀状は最後の別れだったんだ!”

見上げた空は、雲ひとつなく青く澄み切っていた。
私の心も同じように彼の言葉で、澄みきっていた。

友よ!サラバ!
ライバルよ!さよなら!

合掌




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