或るウルトラランナーの涙




第9回神宮外苑24時間走チャレンジが終わった。

本部のあるテント戻ると、チーム仲間のT選手がデレクターチェアに深く腰をかけていた。

彼の背中は疲労困憊したように弱弱しく、丸くなった両肩が切なさを感じた。


足元の荷物を整理しているようで、彼の表情を確認することはできなかった。


僕は、彼の座るチェアの脇に立っと、どうしても彼に労いの言葉をかけたい。



”T君!お疲れ様!素晴らしい記録だ!”と彼の健闘を褒めようしたかったのだ。

僕の言葉に呼応するように、彼は頭を持ち上げた。

そして、僕は驚いてしまった。

彼の両眼ともに真っ赤に充血していたのだ。
僕はすぐに理解した。




彼は周りに気づかれないいように、深く腰を曲げて頭をたれて号泣していたのだ。
彼の号泣は何だったのだろうか??
僕はすぐに理解できた。

彼にとっては達成感ではなくて、未達成感が残ったのだ。
まだまだ自分にはできる。まだまだ先に進めた。

まだまだ力が足りなかった。
そんな焦土感が彼の身体全身を覆っていたのだ。

日本代表選手として内定されない結果に、どうしようもないこの悔しさに、彼は号泣していたのだ。
届きそうで届かなかった夢

日本代表としての自分の姿が、そこにはなかった。


神宮外苑のスタートラインに立った彼の姿は、昨年と違って大きな自信に満ち溢れていた。
それには、ここまでの過酷で大きな犠牲の上でトレーニングに励んでいたことを僕は知っている。に

つい僕も彼に気づかれないように、もらい泣きしてしまった。


彼の真面目さと素直さが僕の心の寄りどころ。

この悔しさがあるから、
来年の神宮外苑24時間走につながると、僕は信じている。

今度は悔し涙でなくて、歓喜の涙になることだろ。

彼の達成感で満ちたシーンが僕の脳裏に焼きつく日は近い。





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