ピーナッツには長寿の秘密
ピーナッツは健康に有益か
ピーナッツは、植物性タンパク質、ビタミン、ミネラル、抗酸化物質、食物繊維、植物ステロールを豊富に含む食品で、適量を日常的に摂取する習慣が死亡率を下げることが判明している。では、ピーナッツならではの栄養素は何であるのか。
Contents
1 : ピーナッツは木の実よりも健康に有益か
2 : ピーナッツの最大のポイントは油か
3 : ピーナッツならではの栄養成分は何か
4 : 参照情報
1 : ピーナッツは木の実よりも健康に有益か
アメリカ・ハーバード大学が30年間にわたって12万人の食生活を調べた研究があります。その中で、「血管を健康にして死亡率を飛躍的に下げる食材」として浮かび上がった食材が、意外にもピーナッツでした。実は、ピーナッツに含まれる油は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がとてもバランスよく含まれていることから、 コレステロール値をさげるほか、血管を強くしたり、糖尿病を軽減したりと、様々な効果を発揮します。ミネラルやタンパク質も多いため、優秀な健康食材として一躍注目を集め始めました。
番組がピーナッツだけを取り上げたのは、ピーナッツが木の実よりも値段が安いからなのかもしれない。確かに中国から輸入したピーナッツは価格が低いが、こういう番組を見る人は健康意識が高いから、中国産を警戒して、国産を買おうとするだろう。日本では、番組で紹介されたように、千葉県でピーナッツの栽培をしているが、その価格は非常に高い。値段との相談は消費者が自分たちでやることなのだから、番組としては、老婆心からピーナッツだけに話を絞るという恣意的な裁量をするといったようなことはするべきではない。
2 : ピーナッツの最大のポイントは油か
番組では、子房柄が地面にまで伸びて地下結実を行うというピーナッツ(落花生)独特の生態を紹介し、「これこそがスーパー健康パワーを生む鍵なんです」というナレーションを流した。しかし謂う所の「スーパー健康パワー」が、地下結実性のない木の実にもある以上、この説明はおかしいと言わざるを得ない。
その後、番組は、地下結実のおかげで、地中のミネラルが、実のデンプンをオレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、α-リノレン酸などの油にじっくり時間をかけて変えることを説明し、「ピーナッツの最大のポイント、それは油」、「ピーナッツオイルは飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランスが理想的!」と言う。
さまざまな食用油の脂肪酸組成を示したグラフで、これを見ると、ピーナッツオイルにおける飽和脂肪酸(パルミチン酸)と不飽和脂肪酸(リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸)の割合は、他と比べて中間的と言える。
しかし、そもそも人間の体内では、飽和脂肪酸がオレイン酸という不飽和脂肪酸に作り変えられるのだから、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランスを問題にすることには意味がない。上のグラフで言うと、左の赤色と右の黄色は同じと考えて差し支えない。奥山治美などが指摘するように、健康にとって重要なのは、必須脂肪酸であるリノール酸とα-リノレン酸との間の ω6/ω3 のバランスである[7]。
ピーナッツオイルには、α-リノレン酸がほとんど含まれていないので、ω6/ω3 のバランスは極めて悪い。毎日ピーナッツを20粒ほど食べるだけなら問題はないが、もしも摂取するすべての油脂のバランスがピーナッツオイルと同じなら、「血管を強くしなやかに」するどころか、むしろ逆になるだろう。リノール酸は必須脂肪酸ではあるが、様々な食品に含まれており、意図的に摂取する必要はない。α-リノレン酸を多く含んでいるという点で上のリストの中で最も望ましい油は、亜麻仁油(flaxseed oil)である。
ピーナッツ摂取に寿命延長効果があるのは、ピーナッツが植物性タンパク質、ビタミン、ミネラル、抗酸化物質、食物繊維、植物ステロールを豊富に含むからである。また菓子の代わりにピーナッツを食べるなら、菓子に含まれている有害な成分の摂取を減らすことで、健康に好影響を与えると考えることもできる。しかし、同じことは木の実に関しても言える。
では、木の実よりも健康効果という点で優れている、ピーナッツならではの特性は何か。それは、ニコチン酸(nicotinic acid)を豊富に含む食品であるという特性である。以下の図(Fig.04)に示されている通り、ニコチン酸(Na)は体内で NAD+(Nicotinamide Adenine Dinucleotide ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)になる。
脊椎動物体内における NAD+の生成と利用の経路
NAD+は、内呼吸で酸化剤として機能するが、年とともに減少し、それが、NAD+依存のサーチュインの活性化を妨げる。
サーチュインは、長寿遺伝子であり、これを活性化することには若返りの効果がある。
ニコチン酸に、心疾患リスクを低減するなど、健康上の利益があることは既に知られているが、これはNAD+の生合成を促進するためであると考えられている。
ニコチン酸 → NAD+ → サーチュインの活性化 → 若返り、長寿
もっとも、上の図を見ればわかる通り、NAD+の前駆物質は他にもある。NMN(Nicotinamide MonoNucleotide ニコチンアミドモノヌクレオチド)もその一つで、NHK は、2015年1月4日に放送された『ネクストワールド』という番組の二回目で、若返りの薬として紹介した。
ワシントン大学とハーバード大学の研究者は、若返りの薬を研究している。人間なら誰しも抱く「若いまま、健康なまま年を取りたい」という夢が現実味を帯び始めているのだ。
この番組で、NMN の量産に成功したとして紹介されたオリエンタル酵母工業株式会社は、番組では社名が伏せられていたのにもかかわらず、放送後株価が急騰した。オリエンタル酵母工業株式会社は、若返りの薬としてはまだ臨床研究の段階ということもあって、NMN を研究用試薬としてしか販売していない。しかし、ネット上では、早くも、国内製造の純粋な NMN(光学異性体 β)を含むと称するサプリが高値で売られている。
NAD+ の材料は他にもある。ニコチン酸、トリプトファン(Tryptophan=Trp)、ニコチンアミドリボシド(Nicotinamide Riboside=NR)がそうだ。ニコチンアミド(nicotinamide=Nam, ニコチン酸アミド)もそうだが、ニコチンアミド自体はサーチュイン活性化の阻害剤である。
栄養学では、ニコチンアミドとニコチン酸は、まとめてナイアシンあるいはビタミンB3と呼ばれる。しかし、ニコチン酸は、ニコチンアミドとは異なり、サーチュイン活性化を阻害しないし、肝臓においては、ニコチンアミドよりもより良い前駆体である。
ニコチン酸 → NAD+ → サーチュインの活性化 → 若返り、長寿
もっとも、上の図を見ればわかる通り、NAD+の前駆物質は他にもある。NMN(Nicotinamide MonoNucleotide ニコチンアミドモノヌクレオチド)もその一つで、NHK は、2015年1月4日に放送された『ネクストワールド』という番組の二回目で、若返りの薬として紹介した。
ワシントン大学とハーバード大学の研究者は、若返りの薬を研究している。人間なら誰しも抱く「若いまま、健康なまま年を取りたい」という夢が現実味を帯び始めているのだ。
この番組で、NMN の量産に成功したとして紹介されたオリエンタル酵母工業株式会社は、番組では社名が伏せられていたのにもかかわらず、放送後株価が急騰した。オリエンタル酵母工業株式会社は、若返りの薬としてはまだ臨床研究の段階ということもあって、NMN を研究用試薬としてしか販売していない。しかし、ネット上では、早くも、国内製造の純粋な NMN(光学異性体 β)を含むと称するサプリが高値で売られている。
NAD+ の材料は他にもある。ニコチン酸、トリプトファン(Tryptophan=Trp)、ニコチンアミドリボシド(Nicotinamide Riboside=NR)がそうだ。ニコチンアミド(nicotinamide=Nam, ニコチン酸アミド)もそうだが、ニコチンアミド自体はサーチュイン活性化の阻害剤である。
栄養学では、ニコチンアミドとニコチン酸は、まとめてナイアシンあるいはビタミンB3と呼ばれる。しかし、ニコチン酸は、ニコチンアミドとは異なり、サーチュイン活性化を阻害しないし、肝臓においては、ニコチンアミドよりもより良い前駆体である。
サーチュイン活性化という点では逆の二つの栄養素を同じ名前で呼ぶことは、サーチュインを活性化したいと思う人にとっては、不都合なことである。
しかし、ナイアシンは、動物性食品中ではニコチンアミド、植物性食品中ではニコチン酸として存在しているので、以下のような植物性食品でナイアシンの含有量が多い食品を選べば、ニコチン酸を摂取できる。
食品100グラム当たりのナイアシン等量(NE)
ピーナッツ:17.0mgNE/100g
干ししいたけ:16.8mgNE/100g
ヒラタケ:10.7mgNE/100g
しかし、ナイアシンは、動物性食品中ではニコチンアミド、植物性食品中ではニコチン酸として存在しているので、以下のような植物性食品でナイアシンの含有量が多い食品を選べば、ニコチン酸を摂取できる。
食品100グラム当たりのナイアシン等量(NE)
ピーナッツ:17.0mgNE/100g
干ししいたけ:16.8mgNE/100g
ヒラタケ:10.7mgNE/100g
ナイアシンは、食べ過ぎると、顔の紅潮や、掻痒感を惹き起こすので、サプリメントなどで大量に摂取することは避けた方がよい。
サーチュイン活性化のためには他の前駆物質も摂取するなど、バランスを取ったほうがリスク分散にもなる。もちろん、ガッテン!が推奨していた、一日20粒ほどのピーナッツなら、問題はない。
ニコチン酸は、トリゴネリンを加熱することでも生じる。トリゴネリンは、コーヒー豆、とりわけ、焙煎度が深いアイスコーヒの豆に多く含まれている。
ニコチン酸は、トリゴネリンを加熱することでも生じる。トリゴネリンは、コーヒー豆、とりわけ、焙煎度が深いアイスコーヒの豆に多く含まれている。
アイスコーヒー一杯(200ml)には3.2mgほどのニコチン酸が入っている。ガッテン!はビールのつまみとしてピーナッツを紹介していたが、アイスコーヒーとも相性が良い。
ガッテン!の番組は、おそらく企画段階で、ピーナッツ(あるいは番組において不自然な形で宣伝されていた柿ピー)を取り上げることを先に決め、その後でハーバード大学の研究論文を見つけたのだろう。もし私が番組のディレクターで、プロデューサーからピーナッツの健康効果に関する番組を作れと命じられたなら、ハーバード大学のリサーチが実証したのは、ナッツ類全般の健康効果であることを断った上で、ピーナッツの寿命延長効果は木の実とほぼ同等で、ピーナッツならではの特性として、ニコチン酸の含有量が豊富であることを説明するという内容に仕上げるだろう。そういう内容の方が、誤解を招かない内容になったのではないのか。


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