泣かないで
父母が両方病気がちになり実家に戻った。仕事も地元で転職した。父が亡くなると、母の認知症が進み、介護もきつくなる一方だったけれど、わたくしが夜中に台所の床にしゃがみこんで独りで泣いていたら、その母が起きてきて、わたしを抱きしめると「泣かないで」と頭を撫でたのだ。
そのからどれくらい経った頃か、ある日、母が居間の椅子にぽつんと座っていた。見ると泣きはらした目をしている。どうしたの?と聞くと、お母さんは役立たずになった、と言うのだ。そして涙をぽろぽろこぼした。わたしは母を抱きしめて、「泣かないで」と頭を撫でたのだ。
今はコロナのせいで母の施設は面会できない。だが、施設を訪ねるたび、わたしはそこにいるお年寄りたちにみな、この「泣かないで」の時間があったのだと思えてならなかった。誰かを悲しませたくないと思う、歳をとるごとに、その思いが深まる。泣かないで、あなたも。
そのからどれくらい経った頃か、ある日、母が居間の椅子にぽつんと座っていた。見ると泣きはらした目をしている。どうしたの?と聞くと、お母さんは役立たずになった、と言うのだ。そして涙をぽろぽろこぼした。わたしは母を抱きしめて、「泣かないで」と頭を撫でたのだ。
今はコロナのせいで母の施設は面会できない。だが、施設を訪ねるたび、わたしはそこにいるお年寄りたちにみな、この「泣かないで」の時間があったのだと思えてならなかった。誰かを悲しませたくないと思う、歳をとるごとに、その思いが深まる。泣かないで、あなたも。


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