物質主義の危険性

 物質主義の危険性

もっとたくさん、より良い富を手に入れることが幸せだ、と考える誘惑は、私たちの周囲のいたるところに潜んでいます。商業広告は、素晴らしい車、立派な宝石、大きな家を持つことが、人生に大きな満足を生む、というメッセージを明確に伝えています。


しかし、実証的な研究はこの考えを否定するだけでなく、実際のところ、単純に物欲を追求することには、幸福感を損なう可能性があることを示しています。事実、物質主義が強い人は、人生満足感が圧倒的に低いのです。さらに、物質主義が強い人は、毎日のポジティブ感情の経験が少なく、抑うつ傾向があること、頭痛、背中の痛み、喉の痛みなど、体調不良を多く訴える傾向があることがわかっています9※。


物質主義は、夫婦の結婚満足感の低さにも関与します。夫婦ともに物質主義が低いカップルは、夫婦の一方、あるいは夫婦のどちらも物質主義が高いカップルに比べて、争いが少なく、コミュニケーションが良好で、結婚満足感も高いそうです10※。そして、結婚生活も長続きする傾向が認められています。


モノを買わずにいられない、ということには、自尊心の低さが根底にあることが多いそうです。自分自身のことをよく思っていない人は、モノを買えば気分が良くなると錯覚してしまいます。そして、モノを買うことで一時的に気分が良くなることはあったとしても、そのポジティブな気持ちはすぐに冷めてしまいます。


豊かさを誇示するために商品を購入しても、他の誰かが必ず自分よりも良い品物をもっているので、勝つことはありません。そのため、裕福な地域に住んでいる人は、モノを買うことにはこだわりますが、幸福にはなれないのです。


一般的に物質的な品物を購入することに重きを置かない人であっても、そのマインドセットを一時的に消費主義に焦点を向けることで、幸福感が損なわれることがあります11※。


ある研究は、研究参加者に、自動車、電化製品、宝石などの高級品の画像を、あるいは、中立的な画像を見せました。その結果、物質主義的な画像を提示された人は、その後、より高レベルの抑うつと不安を報告しました。


この研究結果は、一過性の物質主義的なマインドセットであったとしても、心理的な幸福感が損なわれる可能性があることを示唆します。さらに、物質主義的な画像を提示された人は、社会的な活動への関心も低下することが示されました。


物質主義が幸福感に及ぼす悪影響を考慮すると、物質主義を重視する傾向を減らすためにはどうしたらよいのでしょうか? モノを買うことで幸せを得ようとすることは、損なうことだ、と心に留めておきましょう。実際、仏教徒は、物質的な所有物は真の幸福を得ることを妨げる、と考えています。デューク大学のロジャー・コーレス教授(宗教学)は、著書『仏教の目指すもの(TheVisionofBuddhism)(未邦訳)』において「財産をため込んで幸せになろうとするのは、体中にサンドイッチを貼り付けて空腹を満たそうとするようなものです」と述べています12※。

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