1日お金を使わない 億り人の実験

 1日お金を使わない 億り人の実験



朝、目が覚めてまず財布を開ける。もちろん中身はゼロ。わざと一円も入れていない。  

銀行アプリを見れば、含み益だけで8桁後半が動いている。仮想通貨のポートフォリオは昨夜も寝てる間にまた跳ねた。でも今日は「0円デー」だ。億り人があえて一円も使わない日を決めた。


冷蔵庫にはコストコで買ったまま放置していたキャベツ半玉と、賞味期限ギリギリの納豆が2パック。  

それで充分すぎる。ブラックカードは引き出しの奥に封印したまま、白湯をすする。味気ないが、熱い湯が喉を通るたびに「これでいいんだ」と笑えてくる。


外に出ると、いつものコンビニが眩しい。  

新発売のプレミアム缶コーヒーが498円で売っている。あの値段なら俺の含み益が0.0003秒で稼ぐ額だ。でも今日は買わない。財布すら持たずに歩く。信号待ちで隣に停まったフェラーリがクラクションを鳴らす。俺の車の方が高いのに、と思いつつ素通りする。


昼は残りご飯を温めて、キャベツを千切り。塩とオリーブオイル(昔イタリアで1本3万円で買ったやつ)をかける。味は薄いが、空腹は最高の調味料だ。食べながらチャートをチラ見。ビットコインがまた5万ドル抜けそう。笑いが止まらない。


### 一週間2500円の買い出し 億り人の遊び


夕方、スーパーのカゴを持つ。  

総額2500円以内に収めるという、完全に自分を縛るゲームだ。


・鶏むね肉 1.5kg(約850円)  

・もやし 10袋(200円)  

・キャベツ 3玉(294円)  

・玉ねぎ 1ネット  

・人参 5本  

・じゃがいも 1袋  

・納豆 12パック  

・卵 40個  

・豆腐 8丁  

・米 5kg(安いやつ)


レジで2481円。  

店員さんが「袋にお入れしますか?」と聞いてくる。  

「いえ、両手で運びます」  

昔はドライバーがコストコの荷物を全部運んでくれたのに、今は自分で抱えて帰る。これがたまらなく気持ちいい。


### 僕が億り人なのに節約する本当の理由


資産はもう一生遊んで暮らせる額を超えている。  

でもあの頃——口座に3万しかなくて、1パックの納豆を3日引っ張った日々——の感覚を、絶対に忘れたくない。


金が有り余ると、人は味気なくなる。  

欲望が鈍り、感動が薄れ、朝起きる理由が「また増えたな」だけになる。


だから時々、わざと財布を空にする。  

冷蔵庫を空にして、2500円で7日間生きるルールを課す。  

そうすると、キャベツの甘さが信じられないほど鮮明になる。  

もやし1袋20円のありがたみが、骨身に染みる。


億り人だからこそできる、最上級の贅沢。  

それは「なくても生きられる」という確信を、定期的に身体で味わうことだ。


夜、電気を消して布団に入る。  

スマホの画面も見ない。チャートは明日も勝手に上がる。  

真っ暗な部屋で、自分の呼吸だけが聞こえる。


金があってもなくても、  

結局、俺はここにいる。  

それが一番気持ちいい。

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