鳴子温泉 湯治宿でのおすそ分け
ボクが到着してから2日後にお見えになったMさん。炊事場で調理をしていると「ご飯食べるかい?」とご主人。毎朝高東旅館の田んぼで収穫された新米を炊くという奥様。
「どうせ2合も3合も変わらないからさ、うちのやつ食べなよ」
流石に最初は「申し訳ないですよ」と切り返す。だがあまり断っても却って慇懃無礼か。。遠慮なくいただくことに。
毎朝7時、調理を始めると丼鉢一杯に盛られた白米をご主人が炊事場に持ってくる。それにとどまらず、青菜に漬物、自家製の梅干しに磯辺揚げまで次々と。
毎日の朝定食は拝受したご飯に漬物、自前の卵焼きと納豆、ウインナーを焼いてフリーズドライの味噌汁。上等な朝飯だ。断り過ぎず甘え過ぎず、数日するとちょうど良い距離間を覚えた。
「食品ロスが出なくてこっちも助かるから」
和合の精神を感じる瞬間。
ボクからお返しできるほどの物は持ち合わせていなかったが、少々心得のある温泉の知識。旅先でのエピソードをお話すると大変喜ばれた(これで済むならば、、いくらでもw)。
因みに湯治場での自炊の定番は「鍋」。
購入した豚肉バラを冷凍し、期限の近づいてきた豆腐や元気のなくなってきた野菜をぶち込む。一人前から作れる鍋キューブは有難い存在。種類も多く日持ちも良いので、自炊セットとして常に持ち歩いている。本旅でも重宝した。
昼夜も時々タクシーや奥様の運転に便乗させてもらい、買い出しや食事に行くことも。年明けにも再び「焼肉八兆」へ行った。私よりも3日早くこちらを発たれるご夫妻と別盃を交わす。
主人 「またここで会おうよ、多分来年も鳴子で年越しになるから」
私 「恐らく私も。この店もまた来たいです」
旨くて安い八兆の焼肉。一人客も多いことを今回の旅で知った。だがやはり、焼肉は皆で食べたほうが美味い。
いつも沢山注文して食べきれないご主人、それを発端に喧嘩を始めるご夫婦。最初は仲裁したがもう放っておく。この漫才を見れるのもこれが最後だ。
粗食生活で少しダイエットができると思ったが、逆に太るという現象が起きた。発作が出ると数日間絶不眠絶食状態も起きるため、食欲のある時期は健康な状態か。
朝からアルコールを常飲するご主人。小食で米はいつも余るという。
出発の前日、冷凍したご飯を大量に私に譲ってくれた。結局さとうのごはんの登場機会は最初の数日だけだった。
過剰なまでのお裾分け。私はお礼にと高東旅館近くの「竹野酒店」に行き、日本酒「菊水」のカップを2本買い、炊事場でタバコを吸っていたご主人お渡しした。

主人 「ごめんね。気を遣わせちゃって」
私 「等価交換になってないと思いますが」
主人 「春にも来ようと思う、また会おうよ」
私 「ええ、体調次第ですが」
旅先の「また会いましょう」は、ほとんど社交辞令だ。だが高東旅館で出会う湯治客は、本当にまた会えるような気がする。
湯治もあと僅か。
(引用 ヨシカタ)





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