汗と塩と蝿
「汗と塩と蝿」
照りつける真夏の太陽。
風一つ吹かぬ午後二時、アスファルトがとろけるような遍路道を、一人の男がふらふらと歩いていた。
風間。
白衣は灰色に変色し、背中には汗が滲んで地図のような模様を描いている。傘は破れ、草履はすでに片方の鼻緒が切れ、素足で歩いている。
「汗ってのは、しょっぱいな…」
舌で唇をなめると、塩味がした。
彼は持っていたパンを取り出し、かじった。
昨日、お接待で貰った干からびたロールパン。ぬるく、そしてやはり塩の味がした。いや、これは自分の手汗の味かもしれない。
道端に座り込み、風間は笠を脱いで横に置いた。するとすぐ、肩に蝿が止まる。
手で払っても、また止まる。
蝿にさえ、飢えた匂いがするのか――。
かつては、スーツを着て、エアコンの効いた部屋でパソコンを叩いていた。
人生は変わる。気がつけば、彼は札所を目指して歩く「草遍路」となり、食うにも困る「乞食遍路」になっていた。
それでも彼は歩く。
「俺が欲しいのは、金じゃない。答えだ」
熱された石の上に、ぽとりと汗が落ちた。
つづく。
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ご希望があれば、続きを第二話として書きます。たとえば次は「納経を断られる風間」「ある老婆との出会い」など、展開を広げられます。どうしましょうか?



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